第二十幕 ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』




1999年度のノーベル文学賞受賞作家、ギュンター・グラスの処女作。

「戦後ドイツ最大の収穫」という評価を受けている。

1999年にノーベル文学賞を受賞したドイツの作家、ギュンター・グラスの処女作『ブリキの太鼓』っす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
『ブリキの太鼓』は処女作でありながら、その卓越した語り口によって世界的に絶賛を持って迎えられたんだよな?
そうっすね。『ブリキの太鼓』は「戦後最大の文学的収穫」とまで評され、グラスは作品を出すごとに名実ともにドイツ文学の看板を背負う作家になっていったっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
グラスが戦後ドイツを代表する作家であることに異論はないのだが、スキャンダルも起きてるよな?
2006年に発表した自伝作品『玉ねぎの皮をむきながら』でグラスはSS(ナチス親衛隊)に所属していた過去を明かしたっす。無論、この事実は大きな波紋を呼んだっす。過激派の意見としてはノーベル賞を返上するべき、というものまであったっす。あくまでこれは過激派の意見で、実際には返上しなかったんすけど。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
そのような過去があったためか、グラスの文学は常に時代とともにある。グラスはいつでも移り変わっていく時代をヴィヴィッドに捉えようとしていた。
グラスは人間の普遍性を捉える作家というよりも、切り取った時代の特色を精査する作家っすね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
『ブリキの太鼓』も第二次世界大戦前後のダンツィヒを舞台としており、その風土や人々を描き出している。
ダンツィヒ、率いてはドイツがなぜナチスという狂気に協力的になっていったか、がテーマの一つとしてあるんすけど、この小説はただの歴史小説の枠組みには収まらないっす。なぜならば、物語の語り口が非常に特殊なものだからっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
主人公は精神病院の住人であるオスカル・マツェラートという男だ。物語の枠組みとしては精神病院に収容されたオスカルがその看護人にその過去を語る、という形を取っている。
しかしオスカルの語り口は不可解なところが多々見られ、本当にオスカルが経験したことだけなのか疑問がある。そもそも、オスカルが看護人に語る、という枠組み自体、あまり意味のないものなのかもしれないっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
そもそも、オスカルの話は本人が生まれたときからではなく、その祖父母が結婚に至った経緯から始まる。物語の序盤の挿話だが、伝説的な放火魔だったオスカルの祖父は読者に強い印象を残す。どのようにして、詳細な祖父母の話をオスカルが知ったかは作中では語られない。
オスカル自身、奇妙な設定が数々ついているっす。オスカルは母親の胎内にいたときから人語を解していた。だから、自分が生まれる前の父母のことも知っている。なぜオスカルが胎児のときから言葉を理解していたのかも、作中では語られないっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
オスカルの最大の特徴としては何と言っても三歳から成長しないことだ。オスカルは母親の胎内にいたころ、父親が息子に自分の職である食料販売店を継がせようとしていることを知る。その事実に嫌気が差したオスカルは三歳のとき、意図的に地下倉庫への階段から落ちて自分の成長を止める。そしてオスカルはその後の人生を永遠の子供として生きることになる。
『ブリキの太鼓』は一貫してダンツィヒに住む人々がナチスの方へと合流していく様を描いているっす。そこには良心も人間味もないようなオスカルの目が介入しており、人々はまるで取るに取らないような存在として書かれているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
グラスは人々の「安全に暮らしたい、静かに暮らしたい」という小市民的な願いがナチスに迎合していく様をこれでもかというほどグロテスクに書き出している。さらには、登場人物の一人ひとり、挿話の一つひとつが非常に奇々怪々な設定に彩られており、物語全体としてはまさに怪作という出来になっている。
『ブリキの太鼓』は三部構成になっており、なかなかに長大な作品っす。そこにグラスの変幻自在の語り口が混じってくるのだから、読了はなかなか骨が折れるものになっているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
小説での読了が難しいと感じた人には、同じくドイツの映画監督、フォルカー・シュレンドルフが映像化したものをオススメする。原作に忠実に映像化しており、プロットを掴むのに最適な作品だ。
ただ、『ブリキの太鼓』の映画は原作でいうところの第二部までしか映像化していないっす。けれども、この作品は1979年度のパルム・ドールを受賞するほど高い評価を受けているっす。これはフランシス・フォード・コッポラ監督『地獄の黙示録』と同時受賞だったっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
『ブリキの太鼓』、その最後の最後はオスカルが精神異常者として捕らえられる場面で終わる。読者は唐突に話を打ち切られたようにも感じ、まさに捉えどころのない作品となっている。