第十九幕 ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』




ポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの代表作。

90年代に登場した小説のなかでも、最高傑作の名が高い。

1998年のノーベル文学賞を受賞したポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの最高傑作と呼ばれる『白の闇』っす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
現在のところ、ポルトガル語の作家としては唯一のノーベル文学賞受賞者だな。
サラマーゴ文学の特徴と言えば、何と言ってもその文体っす。一文一文が恐ろしく長く、そこに複雑な比喩も混じってくるっす。一言で言えば、晦渋な文体ってことっすね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
一ページ以上、改行がないこともざらだ。はっきり言って、読了が簡単なタイプの作家ではない。
それでも、サラマーゴ文学は純文学としても、エンターテインメントとしても面白い側面を持っているっす。だから、一冊でもいいから頑張って読んでみて欲しいっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
この『白の闇』も非常に面白い設定をしているよな。
この小説の舞台は「どこかにある都市」っす。サラマーゴ文学ではしばしば固有名詞が明言されないっす。それは登場人物も同じで、「医者」とか「医者の妻」と呼ばれるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
その「ある都市」で、感染性の失明が突如パンデミックを起こす。この災害の原因は最後まで不明だ。だが、都市はこのパンデミックによってまったく機能しなくなる。
もちろん、政府も手を打とうとするんすけど、感染の速度があまりにも早すぎて後手に回ってばかりっす。結果的に、政府は感染者を強制的に隔離する強行手段を取る。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
主人公と見做せる医者とその妻は昔、病院として使われていた建物に隔離される。
ところが、実は医者の妻は夫の身を案じて盲人の振りをしているだけで、実は目が見えている。視力を失った人々のコミュニティのなかで医者の妻だけが周りを見ている。このアンビヴァレントな力関係が前半部分の主軸になるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
隔離された人々はこれまでの生活の基盤を保とうと奮闘する。しかし、目が見えない状態ではそれもままならず、コミュニティは生活もモラルも何もかもが凄まじい速度で崩壊していく。
あくまで一都市がパンデミックに陥ったに過ぎないんすけど、物語は世界が終わったようなポストアポカリプスのような様相を呈する。突如視力を失った人々がトイレに行くことすら難しく蠢いているんすからね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
サラマーゴ文学の別の特徴として、「寓喩性」がある。『白の闇』に限らず、サラマーゴの小説には何かを訴えるような、何かを示しているような、独特の力強さがある。
果たして、この作品が何を表現しているのか、その受け取り方は読者によって千差万別だと思うっす。突然視力を失った人々のなかで一人だけ視力を保ち続ける女性。人間としての生活を保つことができず、崩壊していく人々。目の部分がペンキで塗りつぶされた女神像。受け取るべきものは作品のなかで散見されるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
初めの方に言ったことだが、サラマーゴの小説は非常に読みづらい。それはこの『白の闇』でも例外ではない。実を言えば、これでもサラマーゴの小説のなかでは文体がすっきりしている方なんだけどな。
小説だと読了が難しい、という人のためにオススメしたいのが、この小説の映画化作品っす。2008年に映画化されたもので、『ブラインドネス』というタイトルになっているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
サラマーゴは自身のメディアミックスには否定的だったんだが、生前、この作品の映画化だけは許可を出したんだよな。
ブラジルの映画監督、フェルナンド・メイレレスが総指揮を取っており、上映時間も二時間とそこまで長くはないっす。小説での読了が難しいと思った人は、こちらの映画から入ってプロットを把握するのもオススメっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
この映画は、映画単体としても非常に良くできている。原作に忠実に作り、サラマーゴの寓喩性を守りながらも、エンターテインメントとしても楽しめる出来となっている。
繰り返しになってしまいますが、サラマーゴ文学はその面白さと対照的に読了が非常に難しいものっす。だから、サラマーゴの小説が人々のあいだで膾炙する、ということは難しいかもしれないっすけど、その作品は一人でも多くの人に読んで欲しいっす。
小澤月子
小澤月子