第十六幕 オレノ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』




フランスの大文豪、オレノ・ド・バルザックの代表作の一つ。

様々な側面を持った小説として評価され、現在でもその名声はあせていない。

サマセット・モームが「天才中の天才」と評したフランスの大文豪、オレノ・ド・バルザックの代表作っす。
小澤月子
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玉置小絹
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バルザックは『谷間の百合』『幻滅』などの代表作もあるが、今回は『ゴリオ爺さん』を選出だぜ。
この作品、題名こそ『ゴリオ爺さん』になっているっすけど、実質的な主人公は三人いるっす。ここでは、その三人の生き様を軸に話を広げるっす。
小澤月子
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玉置小絹
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その三人の紹介を。
まず田舎からパリに上京してきた学生、ウジェーヌ・ド・ラスティニヤック。次に大悪党のヴォートラン。最後に題名にもなっているゴリオ爺さんっすね。
小澤月子
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玉置小絹
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この作品によって、ラスティニヤックという名前はフランスでは「野心家」の代名詞にまでなっているんだよな。十九世紀当時、パリに出て法学を学ぶというのは典型的なエリートコースだった。
そうっすね。そしてパリで上流階級と縁を結ぶことが成り上がる一番の方法だった。ラスティニヤックもあれやこれやの手を尽くして上流階級の社交場に潜り込むことを画策する。ところが、なかなか上手いこといかず、ラスティニヤックは実家から送られてくるお金を使い込んでしまう。
小澤月子
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玉置小絹
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現代でもありそうな話だな。そして金がなくなり絶望しているラスティニヤックのところにヴォートランがあれやこれやと入れ知恵をしていく。
結果的にヴォートランが大悪党だと知ったラスティニヤックは彼の出した提案には乗らないっす。けれどもパリでの身の振り方を最も教わったのは、ヴォートランからに違いないっす。
小澤月子
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玉置小絹
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十九世紀のフランス、ほぼ同時代の作家にスタンダールとギュスターヴ・フローベールがいる。この二人も、パリでの立身出世を題材にした有名な作品を書いている。
それぞれ、『赤と黒』と『感情教育』っすね。『赤と黒』の主人公、ジュリアン・ソレルも野心に満ちた魅力的な主人公っすけど、ラスティニヤックも負けず劣らず魅力のある主人公っすね。この二人やフョードル・ドストエフスキー『罪と罰』のロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフやレフ・トルストイ『戦争と平和』のニコライ・イリーイチ・ロストフは文学史のなかでも、特に人気のある主人公じゃないんすかね。
小澤月子
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玉置小絹
玉置小絹
例に出した小説、全部十九世紀に偏っているな。
そうなんすけどね。それほどに十九世紀の小説にも才気煥発が宿り、文学の新たな扉を開いたということなんすよ。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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ただ、フローベール『感情教育』の主人公、フレデリック・モローだけはあまり魅力を感じなかったな。境遇はラスティニヤックと似てるのに。
モローの話はいつか『感情教育』を題材に取ったときにしましょう。ラスティニヤックの話はここまでにして、次はヴォートランの話に移るっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
バルザックは人物再登場法を好んで使った作家として知られる。このヴォートランも『浮かれ女盛衰記』などにも顔を見せる。
人物再登場法は現代ではメジャーな技法っす。けれども、この技法を大々的に行ったのはバルザックが最初、と言われているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
ヴォートランはどの小説でも悪党であるが、知恵が回り、面倒の良い人物としても描写される。もちろん、その裏側には自分の利益の確保があるんだけどな。
実際、『ゴリオ爺さん』でラスティニヤックをパリで成り上がりうる人物に「教育」していく役割はヴォートランが担っているっすね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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このヴォートラン、『ゴリオ爺さん』では物語の終盤で悪事が露見して警察に逮捕される。しかしヴォートランは脱獄囚でもあり、ここでこの男の人生が終わるわけではない。
それでは最後にゴリオ爺さんの話をしましょうか。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
ゴリオは商業で成功した人間で、元々は金持ちだった。しかし二人の娘を上流階級に嫁がせるため、持参金として財産のほとんどを渡し、物語の時点では極貧生活を送っている。
同じ下宿に住むラスティニヤックやヴォートランからはただのしがない老人だと思われ、初めのうちは嘲笑の対象になっている。しかしゴリオの過去を知ったとき、そして娘たちが上流階級に嫁いでいることを知ったとき、同じ下宿の住人は大層驚く。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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しかしこの老人の最期も報われないものだね。娘の一人、アナスタジィの裏切りとも取れる行動にショックを受け、卒中して、そのまま亡くなってしまうんだから。
病床で娘たちに呪詛を吐きながら死んでいくゴリオを見て、ラスティニヤックは確実に自分の未来の姿を重ね合わせる。一度、パリで成功して裕福になった人間がこんなにも惨めに死んでいくのか、ってね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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しかしラスティニヤックの野心はここで収まるわけではない。彼の今後の展望が物語のラストシーンに要約されている。
“A nous deux maintenant!”という台詞っすね。これは日本語に訳せば、「次は僕とお前の番だ!」ってところっす。ここの「お前」はパリそのものを指していて、ラスティニヤックの野心はむしろ燃え上がっていることを示唆して、この小説は終わるっす。
小澤月子
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