第十二幕 スティーブン・スピルバーグ監督『シンドラーのリスト』




アメリカの映画監督、スティーブン・スピルバーグの代表作の一つ。

ホロコースト下のポーランドを舞台に置いている。

玉置小絹
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スティーブン・スピルバーグ監督は数々の代表作を持つが、そのなかでも特に評価の高い『シンドラーのリスト』の評論だぜ。
第二次世界大戦時のドイツ下でのホロコーストを描いた作品っすね。題材が題材だけに、暴力的なシーンも散見されるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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スピルバーグ監督は『E.T.』『インディ・ジョーンズ』などの映画からのイメージで比較的温厚な作品を作る監督と思われている節があるが、実際はまったくそんなことない。むしろ、悪辣と悪趣味を併せ持った監督と言えるだろう。
『シンドラーのリスト』でもその悪趣味とやらが捻じ込まれているっすけど、特に『プライベート・ライアン』の冒頭が有名っすよね。何と言ったって、いきなり戦争のどんぱちが20分近くも続くんすから。
小澤月子
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玉置小絹
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『シンドラーのリスト』はラストシーン以外がすべてモノクロで撮影されており、その演出もホロコーストの陰惨さに拍車を掛けている。
けれども、カメラワークや画面の構図などは近代の映画をしっかりと参考にしていて、モノクロでも古臭さは感じなかったっすね。
小澤月子
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玉置小絹
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この映画の主人公は温厚とも悪辣とも割り切れない性格をしている。ドイツ人のオスカー・シンドラーという男で、実在した人物だ。
シンドラーは実業家であり、物語の冒頭では利益を重んじるリアリストの一面が強調されるっす。まさに実業家のステレオタイプと言った人物像っすね。映画が始まったあたりのシンドラーに好意を抱く観客は少ないんじゃないすかね。
小澤月子
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玉置小絹
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物語はドイツ人のシンドラーがポーランドの都市、クラクフを訪れるところから始まる。その目的は軍需工場を作り、戦争を利用して金儲けするためだ。
あまり主人公らしくない行動っすね。これがピカレスク映画だったらぴったりだったのかもしれないっすけど。
小澤月子
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玉置小絹
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シンドラーが工場を買い取るまでの手腕は鮮やかだ。実業家として天賦の才があるのだろうな。このあたりは物語のテンポも良く、すらすらと頭に入ってくる。さすがスピルバーグ、観客を映画に引き込むのが上手い。
そもそも、この映画の軸は工場の経営が軌道に乗ったあとにあるんすけどね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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シンドラーは労働者としてポーランド系のユダヤ人を大量に雇い入れる。当時、彼らには人権なんてものはなかったからただ働き同然だ。経営者からすれば、うはうはな話だろうな。
シンドラーは物語の早い時点でその才能を発揮して、工場経営を成功させる。しかし、この映画の真価はホロコーストがついに決行されたところから始まるっす。
小澤月子
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玉置小絹
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シンドラーはドイツ人、かつ有能な経営者ということで、ホロコーストに対しては傍観者の立場にある。それどころか、ドイツ軍人の高官が開催するパーティにも招かれるご身分だ。だがクラクフの街にいる以上、当然、目の前でポーランド人が虐殺される光景を見ていくことになる。
ポーランド人虐殺を見て、シンドラーは次第に工場経営に対する考え方が変わっていく。中盤のシンドラーは始終、難しい顔をしている。それはドイツ軍人の高官の前でも同じっす。シンドラーが雇い入れたポーランド人は「労働力になるから、殺害することは損害である」ということに気がついていくんす。そして自分が大立ち回れば、雇ったポーランド人をホロコーストから守ることができるとも。
小澤月子
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玉置小絹
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このあたり、シンドラーの心情の変化を明確に語るわけではない。ただただ、シンドラーの態度と表情だけで示すだけだ。オスカー・シンドラー役、リーアム・ニーソンの実力を見せた形だ。実際に、ニーソンはこの作品でアカデミー主演男優賞にノミネートされている。
ホロコーストを目の当たりにしたシンドラーは確実に「良心」が芽生えていく。そしてその進行とともに、物語の暗部を担う人物が登場する。シンドラーが良識ある人物に変わっていく事実に呼応して、歴史の悪の部分を引き受ける男が出てくるわけっす。その男とはSS将校アーモン・ゲートっす。この軍人はクラクフの強制収容所の所長を勤めた実在の人物っす。
小澤月子
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玉置小絹
玉置小絹
ゲートが朝起きたとき、テラスに出たあとスナイパーライフルを担いで、遊びで街の住人を射殺するシーンがある。このところこそまさに、スピルバーグ監督の「悪趣味」が出たところだな。
物語の後半はシンドラーVSゲートの構図になっているっす。二人が直接喧嘩をするわけではない。ただ、シンドラーは良心に従って自分の従業員を守るため、工場経営の存続に奔走する。狂人とも言える性格付けをされているゲートは意地でもポーランド系ユダヤ人を殺害したい。この二人が人々の命を賭けて駆け引きするところがこの映画の肝っすね。
小澤月子
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玉置小絹
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最終的に、ドイツが戦争に降伏したことによって、ホロコーストは唐突に終わりを迎える。もっとも、初めからシンドラーやゲートなど個人の力量で止められる事件ではなかったしな。結果として、シンドラーは千人を超える従業員を守り抜き、ゲートは戦争の罪を問われて絞首刑に処される。
何と言っても『シンドラーのリスト』で印象的なシーンは終盤の、シンドラーが自分の装飾品であるボタンを投げつけ、「これを売ればもっと多くの人が救えた!」と叫ぶシーンすね。さらにそのあと、自分の高級車を指さし、「これを売ればそれよりも多くの人を救えた!」と続けるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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だが、周りの従業員たちは「すでにあなたは多くの命を救った」と言って激昂するシンドラーを宥める。このシーンがこの映画の本質の最も詰まったところだろうな。