第九幕 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』



60年代、アメリカで特に異彩を放ったロック・バンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1stアルバム。

玉置小絹
玉置小絹
60年代のなかでも特に異彩を放ち、のちのロック業界に多大な影響を及ぼしたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1stアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』だぜ。
このアルバムがどのような点において革新的だったかはおいおい語るとして、この作品、発表当時は評価が芳しくなかったんすよね?
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
まあ、正直に言えばそのとおりだな。商業的には大失敗だった。しかし現在においてはロック史においても上から数えた方が早い名盤として認められている。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのリーダーはルー・リード。そしてこのアルバムにはプロデューサーとして、ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルが関わっている。確かに、布陣としては申し分ないっす。時代の先を行き過ぎた、というやつっすかね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの最大の武器、そして時代に迎合できなかった原因でもあるものは何と言っても作詞だと個人的には思っている。
はて。ヴェルヴェッツの作詞の特徴とは。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
一言で言えば、「内省的」だな。それもルー・リードは文学にも精通しており、凡百の詩人では到達できないほどに卓越した詩を書いた。ルー・リードの書く歌詞はまさに人間の深淵を抉りとるものだ。
その歌詞の鋭さゆえ、デビュー当時はむしろ敬遠されてしまったんすね。ヴェルヴェッツの作詞は後世のミュージシャンに多大な影響を与えたとも聞いているっすけど。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
卓越した歌詞を書くミュージシャンと言えば、やはりノーベル文学賞まで獲ったボブ・ディランがいる。ところがディランは24歳のときに「Like A Rolling Stone」を作詞作曲したことで、若いうちからロック界の伝説となっている。ルー・リードとのこの大きな違いは何か?
やはりルー・リードは「内省的」、つまりは人間の心に重きを置いたところにあるんすかね。ディランは人間と社会の関わりについて書くことが多かった。
小澤月子
小澤月子
先に出た「Like A Rolling Stone」では社会の変革に翻弄され、落ちぶれゆく人間を描いている。「Knockin’ on Heaven’s Door」ではベトナム戦争に対する明確な反抗を見せた。ディランの興味は常に自分の外側、社会に向いているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
人間の心はとかく難しい。これがロボットみたいに単純なものなら、そもそも学問なんて発展しなかっただろうからな。ディランの書く歌詞は難解と評されることがあるが、ルー・リードの書く詩もまた、別の方向性に難しかった。特に、リードの歌詞は一朝一夕で評価される類のものではなかった。
ヴェルヴェッツが人間の内面を覗き込む作詞を行ったゆえ、評価されるまでに時間がかかったことは理解したっす。しかし、このバンドの特異性は他のところにもあるんすよね? 作曲の方面はどうだったんすか?
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
リードの作曲はアンディ・ウォーホルに認められただけあり、ポップなもの、すなわち大衆受けするものだった。だが、それは基盤の話だ。リードはポップなメロディの上に前衛的・実験的なサウンドを上乗せした。
ロックは70年代に入ってからハード・ロックやパンク・ロックなど多様化していく。80年代を過ぎればオルタナと呼ばれる新しい音作りを目指すバンドも表れてくる。しかし、ヴェルヴェッツの活動時期は60年代。作曲の面でもヴェルヴェッツは時代を先取りしていた、ということっすか?
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
端的に言えばそうなるな。60年代のロックはヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスというシンプルな編成がメジャーとなっていた。ところがリードはそこに管楽器や電子楽器の音色も混ぜ合わせた。これがもう少し進んだ時代ならば受け入れられただろうが、当時の人々には不気味な音にしか聞こえなかったんだろう。
アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』の一曲目を飾るのは「Sunday Morning(日曜日の朝)」っすね。この曲もポップ・ミュージックとサイケデリックが混じって聴くものの不安を煽り立てる。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
リードとしては一曲目に入るものだから、万人受けする作詞作曲を目指したらしいがな。そしてこの曲のテーマだが、パラノイアを取っている。
現代文学、特にポストモダン文学においてはもはや市民権を得ているモチーフっすね。しかしそれでも、60年代という時代を考えると、やはり時代を先取りしすぎている気がするっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
何と言っても特徴的な歌詞は「Watch out, the world’s behind you(気をつけろ、世界がお前を見張っている)」だな。確かに、万人受けするとは思えない歌詞だ。
それでも、発売当時には受け入れられなかったこの曲も、冷戦や核の恐怖が深刻化していく世界のなかで、まさに現実に適していくものとなっていった。リードがこの世界を予言していたとまでは言わないっすけど、ロック界において、芸術において、一つの指針を示したことは確かっす。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドがロック・ミュージックの芸術性を高めたことは否定のできない事実っす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
最後に、このアルバムのジャケットとなったバナナの絵はアンディ・ウォーホルが書き下ろしたものだ。有名なジャケットだから、見たことある人も多いのでは。