第六幕 キャロル・リード監督『第三の男』



キャロル・リード監督の代表作。

40年代の映画史に燦然と輝く名作。

玉置小絹
玉置小絹
監督はキャロル・リード。
脚本はグレアム・グリーン。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
音楽はアントン・カラス。
そして悪役であるハリー・ライムを演じたのは『市民ケーン』の監督、オーソン・ウェルズ。
小澤月子
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玉置小絹
玉置小絹
正直なところ、多少、映画と文学方面に知識がある人間だったら、このスタッフを見るだけでお腹一杯って感じだ。
『第三の男』が公開されたのが1949年。第二次世界大戦直後であり、政情が安定していなかったため、映画人にまでスポットライトが当たるような時代ではなかったっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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のちにそれぞれの分野で高く昇り詰める人々が集まっているが、混沌の時代だったからこそ、このスタッフを集めることができたとも言える。
別に映画に限った話ではないっすけど、この映画が製作された時代、何もかもの価値観がひっくり返ったなか、「創作する」ということの意義が問い直されていたっす。さらに現実的な話をすれば、娯楽と見做されていた映画にまで回る資金はなく、限られた製作費でやりくりしなければならなかったっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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だからこそ、40年代、50年代の映画は実験的というか、尖った作品が多い。限られた資金のなかで、新しい表現方法を模索した結果だな。
一般的には『第三の男』はフィルム・ノワールというジャンルに分類されるっすね。このジャンルの特徴は世界大戦後の荒廃・退廃的な世界で起きる犯罪を題材に取ったものが多い、というとこっすかね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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また、画面作りも特異なものが多い。光の明暗が非常にはっきりしているというもので、演者の顔半分が影で隠れているということも珍しくなかった。ときには演者の全身が影で覆われ、シルエットのまま会話を続けることすらあった。
『第三の男』はそのような混沌とした時代のなかで、特に輝きを放った作品っす。実際に、相応の評価は受けているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
物語としてはある男の殺人事件を巡る一連の騒動、とミステリーのプロットを取っているが、舞台として第二次世界大戦後のウィーンを取っている。この時代、ウィーンは米英仏ソによる四分割統治を受けている。
そこまで表向きにはしていないっすけど、この舞台設定によって、作品全体には大戦が残した傷跡というものが確実に漂っているっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
物語はアメリカで売れない作家をしている主人公が、旧友であるハリー・ライム(演:オーソン・ウェルズ)から仕事の依頼を受け、ウィーンを訪れる、というところから始まる。
ところが主人公がウィーンにつく前日、ハリーは交通事故で亡くなっているんすね。警察は事故死で確定しようとしているが、何か思惑を感じないでもない主人公は、親友が巻き込まれた事故の真相の調査を始める。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
さすがグレアム・グリーン、と言わずを得ないほど素晴らしい導入っすね。始めの十五分で観客は一気にウィーンの世界に引き込まれるっす。
そしてその後も、事件を巡った事情は二転三転する。この映画は決して、一度掴んだ観客の興味を放そうとはしてくれない。
小澤月子
小澤月子
プロット上の最大の盛り上がりは、ハリーの墓を掘り起こすところでしょうね。そこには、ハリーではなく、別の人間の遺体が埋められている。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
このシーンから物語は一気呵成に進む。ハリーの死亡事故自体、ハリー本人が仕組んだものだったと判明する。ハリーは粗悪なペニシリンを売りさばいて多額の金を稼いでいることも明らかになる。戦後の荒れた時代だったから、そのような売人は実際に数多くいたのだろうな。
ここから物語の軸は主人公の葛藤に移るっす。ハリーは確かに極悪人である。しかし、主人公の親友である事実も変わらない。主人公はハリーを警察に突き出すか、見逃すか選択を迫られるっす。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
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しかし主人公がある病院を訪れたことで決心は決まる。そこではハリーの流した粗悪なペニシリンによって、むしろ病状が悪化した人々が入院していたからだ。ハリーによって苦しむ人々をこれ以上増やさないため、主人公はハリーとの対決に挑む。
ラストシーンである主人公とハリーの追いかけっこは映画史に残る白眉だと思うっす。二人は拳銃を手にしたまま、夜の下水道で追っかけあいを始める。ほとんど光もなく、演者たちはシルエットとなっている。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
追っかけあいのシーンの画面作りは徹底的に暗い。そしてついにハリーを追い詰めた主人公は台詞もなく、目だけですべてを語る。ハリーも主人公の気迫に対して、頷くだけですべてを答える。この無言のシーンはまさに息を呑む迫力だ。
そして一発の銃声が鳴り響く。まさに完璧と言える終わり方っすね。
小澤月子
小澤月子
玉置小絹
玉置小絹
第二次世界大戦を経験した世界にとって、40年代、50年代はまさに歴史の転回点だった。それは映画業界にも同じことが言える。そのなかで『第三の男』はまさしく新しい時代を作った作品の一つだ。